犬の車いす
犬と飼い主のための会社が、石川県にあります。株式会社シグ・ワークショップ──主力商品の「napiboc(ナピボック)」という商品の名前を聞いたことがある人は少ないと思いますが、この商品開発の裏には社長の吉田茂雄と愛犬ひなの感動的な物語が秘められているのです。
「napiboc(ナピボック)」は、椎間板ヘルニアや股関節形成不全、変性性骨髄症などの病気、あるいは事故で下肢が動かなくなってしまったり、年齢のため筋力が衰えて歩くことが困難になった犬たちのために歩行・運動をサポートする、いわば車いす役目を果たす器具のことです。人用車椅子、犬用車椅子製品、犬用の水中歩行リハビリテーション器具の開発・設計から製造を手掛ける会社、それがこの株式会社シグ・ワークショップです。
すべては愛犬のために
2006年12月のことです。吉田茂雄が、愛犬ひな(コーギー)の歩き方に違和感を覚えたのは。診断は「DM・変性性骨髄症」でした。ゆっくりと麻痺が進行する病気です。痛みを伴うわけではないというのが僅かな救いでしたが、徐々に歩行にもたつくようになってきた愛犬を見るのは悲しく、痛々しい思いでいっぱいになったといいます。
既製の犬用車いすを使用してみますが、しっくりきません。そこで吉田茂雄は自社の車いす製造の技術を活かして、ひなの車いすを試作してみました。ひなの体に合わせて、ひとつひとつの部品を組み合わせていきます。フレームパイプは軽くて強度もあるチタン製。動きが鈍くなってしまっても乗ったままで排便・排尿できるように腐食に強い素材を使用しました。チタンは人工歯根にも使用されるように金属アレルギーの心配が少ないというのも利点の一つです。また、動き回っても身体への負担が少なくてすむというデザインを研究しました。
完成した車いすは「napiboc(ナピボック)」と名付けられました。先住犬のシベリアンハスキー「cobi」と、今は亡きひなの娘「pan」。2匹の名前を英字にして、後ろから読むとnapibocとなります。亡くなった2匹が、ひなに力を貸してくれるように。そして2匹もひなと一緒に元気に走り回ってほしいと願いを込めてつけられた名前です。
犬と飼い主の気持ち
cobiとpan、そしてひなの3匹と吉田茂雄の絆から生まれた「napiboc(ナピボック)」は、今や足に障害を抱える多くの犬たちと飼い主の希望になっています。犬の身体を考えたチタン製の素材を使って、1匹1匹に対してオーダーメイドで仕上げる丁寧な仕事ぶり。何より動きやすさ、快適さ、楽しさなど「犬と飼い主の気持ち」を大切にするという基本姿勢が評価され、全国から問い合わせが寄せられています。
困っている犬と飼い主が「napiboc(ナピボック)」を使って快活さを取り戻すことが、なにより吉田茂雄、それから3匹の犬たちにとって喜びとなるのでしょう。
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